(一般向け解説)

接地逆転層と大気微量成分

地上では人間が活動することで多くのエアロゾル(粒子状物質)やガス成分が大気へ放出されています。そのため、都市域では地上付近でそれらの濃度が高くなることが多く、冬に非常に高い濃度となることがあります。写真1は2022年12月に福岡県内で確認された野焼きから出た煙の流れを撮った写真です。たき火などから出た煙は空高く上がっていくことが多いですが、この日はある高さまで上がり、その後は横にたなびいています。何故でしょう?

写真1:2022年12月10日 8:32に福岡で撮影された野焼きの煙

この日は快晴で放射冷却により、早朝の福岡市周辺では非常に冷え込み,気温は2~6℃でした。福岡管区気象台で行われている定常ゾンデ観測から得られた気温と相対湿度の変化を見ると(図1)、地上~約200mの高さで上空に行くほど気温が高くなっていました。この変化は冬季や極域でよく観測され,接地逆転層ができていることを示します。非常に安定した大気構造で、地上近くの空気が少し上の暖かい空気で蓋をされてしまい、上空の空気と混ざりにくい状態になっています。接地逆転層ができると地上で大気へ放出される物質は、上空へ運ばれにくく、地上付近にとどまり、その結果、大気中の成分濃度が非常に高くなります。日が高くになるにつれ、地上気温が上がり接地逆転層がなくなると、地上近くの空気は上空と混ざりやすくなり、地上近くの大気中の成分濃度は下がっていくことがあります.

図1. 2022年12月10日9時ころに福岡管区気象台で観測された気温と相対湿度の鉛直分布