乙部です。
以下のセミナーは中継するつもりです。気になる人は517号室に集合。聞きたいことがあれば
僕まで。誰でも参加してかまいません。
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惑星大気研究会 オンラインセミナー 第 83 回 日時: 2016 年 10 月 31 日 (月) 16:30 - 18:00 場所: 神戸大学 自然科学総合研究棟 3 号館 508 号室 (508 号室には 506 号室から入室してください) 接続を希望される方は, wtk-staff (at) gfd-dennou.org (高橋) までご連絡ください. 講演者: 樫村博基 (神戸大) 講演タイトル: 成層圏SO2注入による気候工学の強制とフィードバック:GeoMIP G4実験の解析 講演要旨: 気候工学(geoengineering)とは「人為的な気候変動の対策として 行う意図的な惑星環境の大規模改変」のことを言う。地球温暖化に対 抗するための気候工学の手法は、太陽放射の一部を人為的に宇宙空間 に反射させて地表に降り注ぐ放射量を減らす方法(Solar Radiation Management; SRM)と大気中の二酸化炭素を取り除く方法(Carbon Dioxide Removal; CDR)に大別される。SRMの中で最も有力な方法の 1つが、成層圏エアロゾル注入である。これは、例えば1991年のピナ ツボ山のような大規模な火山噴火を模して、成層圏に硫酸塩エアロゾ ルを注入・散布することで、大気の太陽放射反射率を増加させて、地 表が受け取る短波放射量(正味地表短波放射)を減らし、地表気温を 下げようとするものである。気候工学に関するモデル相互比較計画 (Geoengineering Model Intercomparison Project; GeoMIP)では、 地球システムモデルを用いた気候工学数値シミュレーションの相互比 較実験が実施されている。 本研究では、成層圏エアロゾル注入に関するやや現実的な実験設定 のGeoMIP-G4実験について解析する。G4実験は、地球温暖化シナリオ の1つRCP4.5実験を基準(比較対象)として、その上で2020年から 2070年までの間、毎年5 Tg(1991年ピナツボ山噴火の約1/4に相当する) の二酸化硫黄(SO2)を赤道下部成層圏に注入するという想定の実験で ある。ただし、成層圏エアロゾル注入の再現方法は統一されておらず、 SO2から硫酸塩への化学反応過程や核形成・凝集成長などの微物理過程 をモデル化して陽に解くモデルもあれば、単に1991年のピナツボ山噴 火後の成層圏のエアロゾルの光学的深さ(Aearozol Optical Depth; AOD)をもとに作られた規定のAODを境界値データとして与えるだけの モデルもあり、実験結果の比較には工夫を要する。また、成層圏エア ロゾル注入によって地表(対流圏)の気温が低下することで、少なく とも雲量・水蒸気量・地表面アルベドが変化すると考えられる。これ らは短波の反射や吸収に影響するため、SRMの効果に対してフィード バックを与える。 そこで本研究では、G4実験における各モデルのSRM強制とフィード バック効果を分離して求めるために、1層大気を仮定した短波放射伝 達モデルを応用する。すなわち、GeoMIPで提供されている物理量であ る大気上端(Top Of the Atmosphere; TOA)と地表面における短波の 下向き・上向き放射量(全天および晴天)から、晴天大気の短波反射 率・吸収率、雲の効果、地表面アルベドを求める。そして、それぞれ の変化量(G4 - RCP4.5)の、正味地表短波放射の変化量に対する寄 与を求めることで、SRM強制と各フィードバック効果を見積もる。こ の際、晴天大気の反射率の変化は成層圏エアロゾルによるもの、吸収 率の変化は水蒸気量の変化によるものであると仮定している。 解析の結果、SRM強制の大きさは全球・時間平均値でおよそ-3.6 から-1.6 W/m2 と、モデルごとのバラツキが大きいことが示された。 また、SO2から硫酸塩への化学・微物理・輸送過程を陽に計算したモ デルの方がSRM強制が大きく、規定のAODでは毎年5TgのSO2注入による SRM強制としては過小評価であることが示唆された。雲量と水蒸気量 の変化に伴うフィードバックはともに、+0.5から+1.5 W/m2程度の加 熱効果であった。ただし、水蒸気量の変化の効果は、地表気温の変化 量とほぼ比例(気温低下が大きいほど加熱効果も大きい)しているの に対して、雲量変化の効果は気温低下量と相関が低く、その振る舞い はモデル間で一貫していない。一方、地表アルベドの変化は冷却効果 のフィードバックをもたらすものの、その大きさは(全球平均値で見 る限りは)小さい。 以上の結果から、成層圏エアロゾル注入による気候工学のシミュ レーション(G4実験)において、SRM強制そのもののバラツキが大き いこと、そしてSRM強制は雲量・水蒸気量・地表アルベドの変化がも たらすフィードバックによって、地表では半分程度に減じうることが 示された。